2008年
05月
13日
(火)
23:15 |
編集
「入るよ」
指導室の古びてきたドアをノックして、ヴィルナードは室内に足を踏み入れる
。着替えている最中のルノは、ビニールを開けて制服のシャツを出していた。
備えつけのパイプ椅子にどかっと腰を下ろすと、ヴィルナードは疑問に思った
ことをルノにぶつけてみた。
「あの人に何かされたの?」
何気ない質問だったが、ルノは動きを止める程の様子を見せる。
「あんたの反応、おかしかったしさ」
見逃せる位の小さい動きではなかった。ヴィルナードはそれに関しては鈍感で
はないのだ。人の気持ちをすぐに汲み取る事ができた。
「別に」
「嘘。あんた正直に反応してたじゃん」
「言いたくないのは無理に聞かないんじゃなかったのか?」
「変だなって思ったのを聞いてみただけ」
ルノは困惑を隠せない様子を見せる。
「嫌なんだよ」
そう取り繕いながら、通常の制服に着替えると先程着ていた制服のシャツを畳
む。
ただ嫌いだからと、そこまで過剰に反応するものなのだろうかと疑問に思った
。詳しく聞くつもりはないけれど、どうもひっかかってしまう。
「そっか」
ヴィルナードは観念するかのように言うと、椅子から立ち上がった。篭ってい
るような空気が暑苦しく感じて、窓をガラッと開ける。青臭い風の匂いが室内に
入ってくる。
軽く伸びながら窓の外を眺めるヴィルナードの横に、ルノは何も言わずに立つ
。
男くささがあまり見受けられない中性的なルノを見ていると、妙に変な気持ち
になってしまいかねない。
「まさかさ」
「?」
「…いや、いいわ。何でもね」
それを聞いてどうするのかと思った。
変な事を質問しても、彼が傷つくかもしれない。興味本位で聞くような質問は
したくなかった。
「風気持ちいいな」
話題を反らすと、ルノはどこか安心したように「ああ」とだけ返事をした。
未だに理解しがたい能力を持つ者は、星の雨前後に誕生した子供達が割合を占
めるが、稀に違う年齢層の者も含まれていた。
身体に影響を受けやすい、当時小さな子供だった者。ルノの従兄弟であり、保
護者役であるナギル=ラクロ=セラトもその種類の能力を持っていた。
賢い彼は、何の落ち度も無い子供を装い、能力者として親類から忌み嫌われる
事なく今まで生きてきた。哀れな従兄弟を見てきたから、ある日突然与えられた
力を隠していた。
力を持ったことを何の疑問も持たずに生まれた子供は、訳も分からないまま母
から嫌われ、親類からも疎まれ、厄介者扱いをされた揚句に、手のかからない学
校に放り込まれた。
憎まれるために生まれた訳ではないのに、存在するだけで邪魔者扱いされる哀
れな従兄弟。いつからか心を閉ざして、無邪気だったはずの人格も消え失せてい
た。彼が誰かに邪険にされるたびに、自分の方が彼よりも立場が優位なのだと優
越感に浸った事もあった。
指導室の古びてきたドアをノックして、ヴィルナードは室内に足を踏み入れる
。着替えている最中のルノは、ビニールを開けて制服のシャツを出していた。
備えつけのパイプ椅子にどかっと腰を下ろすと、ヴィルナードは疑問に思った
ことをルノにぶつけてみた。
「あの人に何かされたの?」
何気ない質問だったが、ルノは動きを止める程の様子を見せる。
「あんたの反応、おかしかったしさ」
見逃せる位の小さい動きではなかった。ヴィルナードはそれに関しては鈍感で
はないのだ。人の気持ちをすぐに汲み取る事ができた。
「別に」
「嘘。あんた正直に反応してたじゃん」
「言いたくないのは無理に聞かないんじゃなかったのか?」
「変だなって思ったのを聞いてみただけ」
ルノは困惑を隠せない様子を見せる。
「嫌なんだよ」
そう取り繕いながら、通常の制服に着替えると先程着ていた制服のシャツを畳
む。
ただ嫌いだからと、そこまで過剰に反応するものなのだろうかと疑問に思った
。詳しく聞くつもりはないけれど、どうもひっかかってしまう。
「そっか」
ヴィルナードは観念するかのように言うと、椅子から立ち上がった。篭ってい
るような空気が暑苦しく感じて、窓をガラッと開ける。青臭い風の匂いが室内に
入ってくる。
軽く伸びながら窓の外を眺めるヴィルナードの横に、ルノは何も言わずに立つ
。
男くささがあまり見受けられない中性的なルノを見ていると、妙に変な気持ち
になってしまいかねない。
「まさかさ」
「?」
「…いや、いいわ。何でもね」
それを聞いてどうするのかと思った。
変な事を質問しても、彼が傷つくかもしれない。興味本位で聞くような質問は
したくなかった。
「風気持ちいいな」
話題を反らすと、ルノはどこか安心したように「ああ」とだけ返事をした。
未だに理解しがたい能力を持つ者は、星の雨前後に誕生した子供達が割合を占
めるが、稀に違う年齢層の者も含まれていた。
身体に影響を受けやすい、当時小さな子供だった者。ルノの従兄弟であり、保
護者役であるナギル=ラクロ=セラトもその種類の能力を持っていた。
賢い彼は、何の落ち度も無い子供を装い、能力者として親類から忌み嫌われる
事なく今まで生きてきた。哀れな従兄弟を見てきたから、ある日突然与えられた
力を隠していた。
力を持ったことを何の疑問も持たずに生まれた子供は、訳も分からないまま母
から嫌われ、親類からも疎まれ、厄介者扱いをされた揚句に、手のかからない学
校に放り込まれた。
憎まれるために生まれた訳ではないのに、存在するだけで邪魔者扱いされる哀
れな従兄弟。いつからか心を閉ざして、無邪気だったはずの人格も消え失せてい
た。彼が誰かに邪険にされるたびに、自分の方が彼よりも立場が優位なのだと優
越感に浸った事もあった。
2008年
05月
13日
(火)
23:13 |
編集
普通に授業が終わり、ルノは通常の制服を受け取る為に職員室へ向かう。今ま
で隔離されたような場所に居た為に職員室の位置がいまいち分からず、ヴィルナ
ード同伴で案内された。
研究室の特殊な制服を見ると、他の生徒はルノを敬遠してしまうために通常の
制服を着用するようにと言われたのだった。
どちらかというと小柄で華奢な体型のルノ。破壊の力など持っているようには
到底思えなかった。
「お、来たか」
ルノの姿を確認するなり担当教師は、机からビニールに入った数着の制服を出
して彼に手渡す。
「お前は付き添いか?」
「そうっす」
「ちゃんと面倒見てくれてるな」
「面倒じゃないから余裕だよ」
サイズはちゃんと合ってるか確認しろよとルノに言い聞かせると、着替えるな
ら指導室使えと鍵をヴィルナードに手渡す。
ヴィルナードはルノに「行こっか」と、にっこりと微笑んだ。
指導室に行く途中、ルノはふと歩く足を止める。ヴィルナードは彼の視線の先
にあるものを見た。
昨日会った、黒いスーツ姿のルノの保護者がそこに居た。
二十代後半位だろうか、改めて見ると保護者にしては若すぎるが、自分達より
は遥かに大人に見える。
男はこちらの姿を確認すると、「ああ」と自分から声をかけてきた。ルノの表
情は若干曇ったが、ヴィルナードがそれに気付く事はなかった。
「ルノと仲良くしてくれているみたいで安心しました」
「いえ…同じクラスだし大丈夫です」
そうですかと冷静そうな外見に似合わない優しげな顔を向けると、彼はルノに
目をやった。
「当分の支援金を支払いに来たんだ」
「………」
「仲良くしてくれる人でよかったな、ルノ」
男がルノの頬に手を当ててゆっくり撫でると、反射的に彼は男の手から逃れた
。異常ともいえるような反応を、ヴィルナードは見てしまう。
嫌いなのは分かるが、すぐに体が反応する程の過剰な嫌がり方だった。
「おやおや…嫌われたものだな」
ルノは男から目を逸らし、床に視線を落とす。世話をしてくれているはずの相
手を嫌うとは、どういう訳なのかとヴィルナードは疑問に思ってしまった。
「まあいい。ルノ、後でゆっくり話をしよう」
落ち着いた声でルノに言い、男はヴィルナードに一礼をして一般用の昇降口へ
立ち去っていく。大人の振る舞いだなあと呑気に考えるヴィルナード。
ルノは持っていた制服を抱きしめ、縮こまるように身を固くしていた。
「…ルノ?」
様子がおかしいことに、今頃気付いたヴィルナードは、ルノの顔を覗き込む。
どう見ても、あの保護者を恐れているような反応だ。
「え」
しばらくすると、ルノはヴィルナードの問いかけに気付いたらしく、我に返っ
て茶色い瞳を彼に向ける。平静を装おうとするが、かえって不自然に見えてしま
うのをルノは分かっているのだろうか。
思い出したみたいに彼は制服を着替えてくる、とヴィルナードから鍵を受け取
り、急いで指導室へ足を進めた。
で隔離されたような場所に居た為に職員室の位置がいまいち分からず、ヴィルナ
ード同伴で案内された。
研究室の特殊な制服を見ると、他の生徒はルノを敬遠してしまうために通常の
制服を着用するようにと言われたのだった。
どちらかというと小柄で華奢な体型のルノ。破壊の力など持っているようには
到底思えなかった。
「お、来たか」
ルノの姿を確認するなり担当教師は、机からビニールに入った数着の制服を出
して彼に手渡す。
「お前は付き添いか?」
「そうっす」
「ちゃんと面倒見てくれてるな」
「面倒じゃないから余裕だよ」
サイズはちゃんと合ってるか確認しろよとルノに言い聞かせると、着替えるな
ら指導室使えと鍵をヴィルナードに手渡す。
ヴィルナードはルノに「行こっか」と、にっこりと微笑んだ。
指導室に行く途中、ルノはふと歩く足を止める。ヴィルナードは彼の視線の先
にあるものを見た。
昨日会った、黒いスーツ姿のルノの保護者がそこに居た。
二十代後半位だろうか、改めて見ると保護者にしては若すぎるが、自分達より
は遥かに大人に見える。
男はこちらの姿を確認すると、「ああ」と自分から声をかけてきた。ルノの表
情は若干曇ったが、ヴィルナードがそれに気付く事はなかった。
「ルノと仲良くしてくれているみたいで安心しました」
「いえ…同じクラスだし大丈夫です」
そうですかと冷静そうな外見に似合わない優しげな顔を向けると、彼はルノに
目をやった。
「当分の支援金を支払いに来たんだ」
「………」
「仲良くしてくれる人でよかったな、ルノ」
男がルノの頬に手を当ててゆっくり撫でると、反射的に彼は男の手から逃れた
。異常ともいえるような反応を、ヴィルナードは見てしまう。
嫌いなのは分かるが、すぐに体が反応する程の過剰な嫌がり方だった。
「おやおや…嫌われたものだな」
ルノは男から目を逸らし、床に視線を落とす。世話をしてくれているはずの相
手を嫌うとは、どういう訳なのかとヴィルナードは疑問に思ってしまった。
「まあいい。ルノ、後でゆっくり話をしよう」
落ち着いた声でルノに言い、男はヴィルナードに一礼をして一般用の昇降口へ
立ち去っていく。大人の振る舞いだなあと呑気に考えるヴィルナード。
ルノは持っていた制服を抱きしめ、縮こまるように身を固くしていた。
「…ルノ?」
様子がおかしいことに、今頃気付いたヴィルナードは、ルノの顔を覗き込む。
どう見ても、あの保護者を恐れているような反応だ。
「え」
しばらくすると、ルノはヴィルナードの問いかけに気付いたらしく、我に返っ
て茶色い瞳を彼に向ける。平静を装おうとするが、かえって不自然に見えてしま
うのをルノは分かっているのだろうか。
思い出したみたいに彼は制服を着替えてくる、とヴィルナードから鍵を受け取
り、急いで指導室へ足を進めた。
2008年
05月
10日
(土)
01:22 |
編集
人気のなさそうな所を探して、ルノは安心できる場所に一人座り込む。人が多
い所は苦手だと改めて実感した。研究室は少人数だったから、まだ気が楽だった
。
似たような能力を持つ者が居たからまだよかった。実際馴れ合う事はなかった
が、同じ境遇に立たされているという妙な連帯感があったのだ。今はそれがなく
、下手に力を使うと奇人扱いをされそうで、いたたまれない。
最大のコンプレックスを指摘されているみたいで、その場所に居てはいけない
ような気にさせられてしまう。
この場所から逃げたいと気弱なことまで考えてしまう自分。居場所がないので
はないかと、ネガティブな事を考えてしまう。例えここから逃げたとしても、帰
る場所すら見つからない。絶対にあの男のもとには行きたくない。
膝を抱えてぼんやりとしていると、少女のぶっきらぼうな声が上から降ってき
た。
「あ、居た居た」
非常階段を降り、手には袋を持つ彼女は、ルノの目の前までやってくるとその
袋を彼の前に突き出した。
「ねね、皮剥いてくんない?」
「は?」
「私、栗好きなんだけどさ。皮剥くのが嫌いなんだよね」
左側にどかっと腰をかけ、少女はルノに袋を持たせた。「毎回送られてくるの
」と1つ取り出す。
「でもなかなか皮向けないからさ」
「………」
「あんた、中身きれいにしたまま皮壊すのってできる?」
「出来るけど…」
言われた通りにルノは手の平の栗に軽く力を集中させると、まるで脱皮するか
のように栗は実だけの姿を見せた。
少女は嬉しそうに歓声を上げる。
「凄っ!嬉しい〜」
その栗を一口で頬張ると、「あんたも食っていいよ」と微笑んだ。
呆気にとられるルノ。
「気にすることないよ」
食べながら、彼女は呟く。
「周りを気にしてるみたいだからさ。人がいる分色んな奴居るから、あのクラス
」
「………」
「食っていいって。遠慮しなくていいよ」
私全部食っちゃうじゃないと皮が剥かれた栗をひたすらルノから取って言う。
「私はリコ。よろしくね」
「…あんたも、普通に力あるんだよな」
「んー、まあ、そんなにたいしたもんじゃないけどね。怪我とか治す程度のもん
だから、あれば便利かなって思う位」
リコの後を追ってきたヴィルナードは、ようやく見つけたあと言わんばかりに
ルノの右隣に座り込む。
「なあんだ、来たんだ」
「あいつらビービー文句言ってたわ」
「言わせといたらあ」
うるさいクラスメートよりも栗が大事らしく、暴言を吐いても聞いても気にな
らないようだ。
「よく食うな」
「皮剥いてくれるからさ。すぐに食べる事できて嬉しい」
自分の能力に嫌気がさしているルノに対しての彼女の優しさを感じた。ヴィル
ナードは剥かれた栗を一つ口に含む。
「すぐ食えるっていいな」
「いっつも苦戦してるもんね」
もぐもぐと普通に口に入れていくリコに、ヴィルナードはふと疑問に思ったこ
とを問う。自分が今感じる事をそのまま。
「なあ」
「ん?」
「喉…渇かね?」
リコは飲み物無しで連続で栗を食べ続けていたのだった。
い所は苦手だと改めて実感した。研究室は少人数だったから、まだ気が楽だった
。
似たような能力を持つ者が居たからまだよかった。実際馴れ合う事はなかった
が、同じ境遇に立たされているという妙な連帯感があったのだ。今はそれがなく
、下手に力を使うと奇人扱いをされそうで、いたたまれない。
最大のコンプレックスを指摘されているみたいで、その場所に居てはいけない
ような気にさせられてしまう。
この場所から逃げたいと気弱なことまで考えてしまう自分。居場所がないので
はないかと、ネガティブな事を考えてしまう。例えここから逃げたとしても、帰
る場所すら見つからない。絶対にあの男のもとには行きたくない。
膝を抱えてぼんやりとしていると、少女のぶっきらぼうな声が上から降ってき
た。
「あ、居た居た」
非常階段を降り、手には袋を持つ彼女は、ルノの目の前までやってくるとその
袋を彼の前に突き出した。
「ねね、皮剥いてくんない?」
「は?」
「私、栗好きなんだけどさ。皮剥くのが嫌いなんだよね」
左側にどかっと腰をかけ、少女はルノに袋を持たせた。「毎回送られてくるの
」と1つ取り出す。
「でもなかなか皮向けないからさ」
「………」
「あんた、中身きれいにしたまま皮壊すのってできる?」
「出来るけど…」
言われた通りにルノは手の平の栗に軽く力を集中させると、まるで脱皮するか
のように栗は実だけの姿を見せた。
少女は嬉しそうに歓声を上げる。
「凄っ!嬉しい〜」
その栗を一口で頬張ると、「あんたも食っていいよ」と微笑んだ。
呆気にとられるルノ。
「気にすることないよ」
食べながら、彼女は呟く。
「周りを気にしてるみたいだからさ。人がいる分色んな奴居るから、あのクラス
」
「………」
「食っていいって。遠慮しなくていいよ」
私全部食っちゃうじゃないと皮が剥かれた栗をひたすらルノから取って言う。
「私はリコ。よろしくね」
「…あんたも、普通に力あるんだよな」
「んー、まあ、そんなにたいしたもんじゃないけどね。怪我とか治す程度のもん
だから、あれば便利かなって思う位」
リコの後を追ってきたヴィルナードは、ようやく見つけたあと言わんばかりに
ルノの右隣に座り込む。
「なあんだ、来たんだ」
「あいつらビービー文句言ってたわ」
「言わせといたらあ」
うるさいクラスメートよりも栗が大事らしく、暴言を吐いても聞いても気にな
らないようだ。
「よく食うな」
「皮剥いてくれるからさ。すぐに食べる事できて嬉しい」
自分の能力に嫌気がさしているルノに対しての彼女の優しさを感じた。ヴィル
ナードは剥かれた栗を一つ口に含む。
「すぐ食えるっていいな」
「いっつも苦戦してるもんね」
もぐもぐと普通に口に入れていくリコに、ヴィルナードはふと疑問に思ったこ
とを問う。自分が今感じる事をそのまま。
「なあ」
「ん?」
「喉…渇かね?」
リコは飲み物無しで連続で栗を食べ続けていたのだった。
2008年
05月
10日
(土)
01:21 |
編集
「それとも、引いてほしいの?」
「そこまで言ってないけど…」
予想外の返事が返ってきたので、ルノはどう言ったらいいのか分からない。
「あんたのその力とさ。俺は真逆みたいだから、別に怖がるとか必要ないよ。カ
バーすりゃいいだけだしな」
ヴィルナードは共有する小さめの冷蔵庫から缶ジュースを2本取ると、ルノに
放った。普通の扱いをしてくれる人間は今までに居なかったためか、驚きを隠せ
ないようだった。
家に居てもこの学校に来ても、腫れ物に触るような扱いしかされなかったのだ
。例え相手が気付かせまいとしているようでも、やはりそう感じてしまう。
「それに、力使うのが嫌なんだろ」
「……」
「ならいいじゃん」
子供のように無邪気な笑みをしながら、ヴィルナードはルノに言った。その笑
顔を見て、ルノは卑屈になっていた自分が恥ずかしくなった。彼から目を反らし
、受け取った缶ジュースを開けて口にする。
…甘酸っぱいオレンジの味がした。
なかなか教師達が卒業を許してくれなかった理由。こういう事だったのかと、
ヴィルナードは目の前で飛び散った陶器の破片を見ながらひしひしと感じていた
。
特殊技能開発室から来たルノを、クラスメート達はヴィルナードのように寛容
に受け入れる訳ではなかった。破壊という人を傷つけるかもしれない能力を持つ
彼を、怖がる生徒も居るのだ。
「…ナーバスになんなくてもいいよ」
緊張しているのか、噂に敏感になりすぎているのか。不意に能力が発動してし
まい、陶器の花瓶がいきなり割れてしまったのだ。
「俺、直しておくからさ」
そう言って、ヴィルナードは割れた破片を繋ぎ合わせていく。教室の隅にある
小さな洗面所で、花瓶に水を入れ、活けてあった花を元通りにさした。
「悪い。…俺、ちょっと教室出る」
ルノはそう言うと、気まずい表情で教室を後にした。彼の姿が見えなくなると
、教室内の緊張が解れたような雰囲気になる。
「見た?こええよマジで」
「これからあんなのと一緒?勘弁してよ」
居なくなるのをいい事に、好き放題に言うクラスメートを、ヴィルナードは苦
々しく思った。
自分の席に座り、どうしたらいいのか思い悩んでいると、目の前に座るリコは
おやつに持ってきたらしい栗を剥きながら呟いた。
「…皮、硬いわ。頼んでくる」
「?」
おもむろに立ち上がると、彼女は栗が入った袋を持ち出し歩きだす。
「あいつ、化けモンだわ」
ルノの噂を続ける彼らに、ヴィルナードは何か言ってやろうと口を開いた。
「…痛ってえ!」
「何だこれ…」
いきなり飛んできたらしい物が足元に転がる。茶色い栗。
「あー、ごめん。化けモン居るって聞いたからさぁ。化けモンと間違って退治し
ようとしたわ」
意外な反撃に、ヴィルナードは思わず吹き出してしまった。やるじゃんかよと
、リコにGJと言いたくなるのを押さえる。
「くそうぜぇ女!」
「あっそ!」
憤慨するクラスメートをよそに、リコは飄々と教室を後にする。ヴィルナード
はそんな彼女を追うために、ようやく腰を上げた。
あいつ、やっぱイイわ。そう思って、彼はにやにやしてしまった。
「そこまで言ってないけど…」
予想外の返事が返ってきたので、ルノはどう言ったらいいのか分からない。
「あんたのその力とさ。俺は真逆みたいだから、別に怖がるとか必要ないよ。カ
バーすりゃいいだけだしな」
ヴィルナードは共有する小さめの冷蔵庫から缶ジュースを2本取ると、ルノに
放った。普通の扱いをしてくれる人間は今までに居なかったためか、驚きを隠せ
ないようだった。
家に居てもこの学校に来ても、腫れ物に触るような扱いしかされなかったのだ
。例え相手が気付かせまいとしているようでも、やはりそう感じてしまう。
「それに、力使うのが嫌なんだろ」
「……」
「ならいいじゃん」
子供のように無邪気な笑みをしながら、ヴィルナードはルノに言った。その笑
顔を見て、ルノは卑屈になっていた自分が恥ずかしくなった。彼から目を反らし
、受け取った缶ジュースを開けて口にする。
…甘酸っぱいオレンジの味がした。
なかなか教師達が卒業を許してくれなかった理由。こういう事だったのかと、
ヴィルナードは目の前で飛び散った陶器の破片を見ながらひしひしと感じていた
。
特殊技能開発室から来たルノを、クラスメート達はヴィルナードのように寛容
に受け入れる訳ではなかった。破壊という人を傷つけるかもしれない能力を持つ
彼を、怖がる生徒も居るのだ。
「…ナーバスになんなくてもいいよ」
緊張しているのか、噂に敏感になりすぎているのか。不意に能力が発動してし
まい、陶器の花瓶がいきなり割れてしまったのだ。
「俺、直しておくからさ」
そう言って、ヴィルナードは割れた破片を繋ぎ合わせていく。教室の隅にある
小さな洗面所で、花瓶に水を入れ、活けてあった花を元通りにさした。
「悪い。…俺、ちょっと教室出る」
ルノはそう言うと、気まずい表情で教室を後にした。彼の姿が見えなくなると
、教室内の緊張が解れたような雰囲気になる。
「見た?こええよマジで」
「これからあんなのと一緒?勘弁してよ」
居なくなるのをいい事に、好き放題に言うクラスメートを、ヴィルナードは苦
々しく思った。
自分の席に座り、どうしたらいいのか思い悩んでいると、目の前に座るリコは
おやつに持ってきたらしい栗を剥きながら呟いた。
「…皮、硬いわ。頼んでくる」
「?」
おもむろに立ち上がると、彼女は栗が入った袋を持ち出し歩きだす。
「あいつ、化けモンだわ」
ルノの噂を続ける彼らに、ヴィルナードは何か言ってやろうと口を開いた。
「…痛ってえ!」
「何だこれ…」
いきなり飛んできたらしい物が足元に転がる。茶色い栗。
「あー、ごめん。化けモン居るって聞いたからさぁ。化けモンと間違って退治し
ようとしたわ」
意外な反撃に、ヴィルナードは思わず吹き出してしまった。やるじゃんかよと
、リコにGJと言いたくなるのを押さえる。
「くそうぜぇ女!」
「あっそ!」
憤慨するクラスメートをよそに、リコは飄々と教室を後にする。ヴィルナード
はそんな彼女を追うために、ようやく腰を上げた。
あいつ、やっぱイイわ。そう思って、彼はにやにやしてしまった。
2008年
05月
08日
(木)
19:53 |
編集
いきなり顔を洗うのかよ、とヴィルナードは不思議そうに思った。水の音を聞
きながら、訳の分からない奴だなと腰を下ろしていたベッドに寝転がる。
洗顔を終えたルノは、無表情で戻ってきた。
「汗でもかいたの?」
「?」
「いきなり顔洗うし」
ああ、とルノは鞄から中身を出してその疑問に答えた。
「あいつに触られたからな」
嫌悪が入り混じる声音。
ヴィルナードはむくっと起き上がると、「へえ…保護者なのに嫌なんだ?」と
続けて聞く。居てくれるだけで安心なのではないかと、孤児である彼は思ってい
た。
「勝手に言ってるだけだ」
「兄弟とかじゃねえの?」
冗談じゃない…とルノは呟くように言うと、小さめのクローゼットに自分の物
をしまい始める。
「…触られただけで洗うって余程嫌いなんだろな。別に何かされた訳でもなさそ
うなのに」
深い意味はないつもりで言ったヴィルナードだったが、ルノは微弱な反応をす
る。
「あんたは詮索好きなのか」
「別に。これから付き合うのに仲良くなきゃ意味ないじゃん?言いたくないもん
なら言わなくてもいいし、聞きたいとも思わねえよ。ただ疑問に思っただけ」
「…昔から嫌いなだけだ」
「へえ。異常なまで嫌ってるみたいだな」
「異常な位嫌いだと思えばいい」
答えるのが面倒なのか、答えたくないのか分からないが、ヴィルナードはそれ
以上追求するのはやめておくことにした。
最初から揉めるのも嫌だ。
「結構喋る?」
「?」
「あんた最初、無表情で何も言わなかったからさ。無口な奴なのかなと思って」
「聞かれれば答えるだけ」
空になった鞄をクローゼットの下に入れると、ルノはヴィルナードをようやく
見る。外見からしてうるさそうなタイプだと、彼は思った。好きになれそうにも
ない。
いらないことを言えば延々と語りそうな口やかましい性格っぽく見えた。外見
で判断はしたくはないが、そう感じる。
「わかんない事があれば何でも言ってくれよな。何か知らないけど、適役俺みた
いだしさ。仲良くしとこ」
「…あんたは俺が怖いとかは感じないのか?向こうから来たのに」
向こう。異端者の集まりとされる場所を指して、ルノはヴィルナードに問う。
いいイメージが沸かないであろう場所から来た者を、好奇な眼差しで見る生徒が
多数居たことは、短期間であれどその場所に居た彼自身よく感じていた。
ただでさえこの学校は特別扱いで見られがちで、その中でも異種生徒であった
ルノ。研究室の生徒は、シャツの襟章と袖口の赤いラインで判別されていた。普
通の生徒からは敬遠されがちの外見だ。差別の対象になるのではないかと教師の
間では話し合いが幾度も繰り替えされていたが、感情のコントロールができない
生徒からの対処方法の一環にもなっていた。
「なんで?」
けろっとしてヴィルナードはルノに逆に問う。
「なんでって…」
想像もしない返事を受けて、ルノはどう対応するか分からず詰まった。
「まだよく知りもしない相手が怖いなんて変じゃね?」
当たり前のように答えるヴィルナード。普通の生徒のイメージで、てっきり敬
遠していくのかと思っていたルノは呆気にとられてしまう。
きながら、訳の分からない奴だなと腰を下ろしていたベッドに寝転がる。
洗顔を終えたルノは、無表情で戻ってきた。
「汗でもかいたの?」
「?」
「いきなり顔洗うし」
ああ、とルノは鞄から中身を出してその疑問に答えた。
「あいつに触られたからな」
嫌悪が入り混じる声音。
ヴィルナードはむくっと起き上がると、「へえ…保護者なのに嫌なんだ?」と
続けて聞く。居てくれるだけで安心なのではないかと、孤児である彼は思ってい
た。
「勝手に言ってるだけだ」
「兄弟とかじゃねえの?」
冗談じゃない…とルノは呟くように言うと、小さめのクローゼットに自分の物
をしまい始める。
「…触られただけで洗うって余程嫌いなんだろな。別に何かされた訳でもなさそ
うなのに」
深い意味はないつもりで言ったヴィルナードだったが、ルノは微弱な反応をす
る。
「あんたは詮索好きなのか」
「別に。これから付き合うのに仲良くなきゃ意味ないじゃん?言いたくないもん
なら言わなくてもいいし、聞きたいとも思わねえよ。ただ疑問に思っただけ」
「…昔から嫌いなだけだ」
「へえ。異常なまで嫌ってるみたいだな」
「異常な位嫌いだと思えばいい」
答えるのが面倒なのか、答えたくないのか分からないが、ヴィルナードはそれ
以上追求するのはやめておくことにした。
最初から揉めるのも嫌だ。
「結構喋る?」
「?」
「あんた最初、無表情で何も言わなかったからさ。無口な奴なのかなと思って」
「聞かれれば答えるだけ」
空になった鞄をクローゼットの下に入れると、ルノはヴィルナードをようやく
見る。外見からしてうるさそうなタイプだと、彼は思った。好きになれそうにも
ない。
いらないことを言えば延々と語りそうな口やかましい性格っぽく見えた。外見
で判断はしたくはないが、そう感じる。
「わかんない事があれば何でも言ってくれよな。何か知らないけど、適役俺みた
いだしさ。仲良くしとこ」
「…あんたは俺が怖いとかは感じないのか?向こうから来たのに」
向こう。異端者の集まりとされる場所を指して、ルノはヴィルナードに問う。
いいイメージが沸かないであろう場所から来た者を、好奇な眼差しで見る生徒が
多数居たことは、短期間であれどその場所に居た彼自身よく感じていた。
ただでさえこの学校は特別扱いで見られがちで、その中でも異種生徒であった
ルノ。研究室の生徒は、シャツの襟章と袖口の赤いラインで判別されていた。普
通の生徒からは敬遠されがちの外見だ。差別の対象になるのではないかと教師の
間では話し合いが幾度も繰り替えされていたが、感情のコントロールができない
生徒からの対処方法の一環にもなっていた。
「なんで?」
けろっとしてヴィルナードはルノに逆に問う。
「なんでって…」
想像もしない返事を受けて、ルノはどう対応するか分からず詰まった。
「まだよく知りもしない相手が怖いなんて変じゃね?」
当たり前のように答えるヴィルナード。普通の生徒のイメージで、てっきり敬
遠していくのかと思っていたルノは呆気にとられてしまう。



